泥の沼



最初に足を踏み入れてしまったのはいつだったか。
彼が笑う度にドキリとするようになったのはいつからだったか。

泥の沼に踏み込んだように、足がその灰色から抜けなくて、でもそれがちっとも嫌ではなくて。
僕の心はいつだって、嫌がっていない自分が、本当に嫌で嫌で堪らなくて、だから、必死にそこから抜け出そうと足掻くのに、けっしてそこは僕の足を離さない。

「なあ、エド、デュエルしようぜ!」

彼が声を掛けて来る度にどんどん呑み込まれて行く。両足がもう動かない。泥は容赦なく僕の両足を取り込んで、何かに掴まろうと手を伸ばしても、掴む物など何もない。

気が付けば、彼のそんな提案に頷く自分がいて、デュエルをして、勝ったり、負けたりして、そうして結果はどうであれ「楽しかったぜ!」と満面の笑みを浮かべる彼に、ああ、また溺れていくのだと思うのだ。

十代は泥沼に似ている。と言ったら、彼の弟分たちには酷いと言われるのだろうが、足を取られて、身動きが取れずに、どんどん深みにはまっていく様子はまさに泥沼にはまった時のそれで。

だけれど、その汚い筈の沼の温度が心地良い。


十代が好きだ。
本当に好きだ。
自覚してしまえばもう後は望んでその泥沼に身を浸して。
十代の良く喋り、良く笑い、良く食べる唇に触れたくなった。
良く食べる癖に細い身体を抱き締めたくなった。
細い腕を引いて、悔しいかな自分よりも少し背の高い身体を引き寄せて、押し倒して、思う存分貪ってやりたい。

きっともう、今の僕は指先すら残らずに深く深く侵食されているんだろうな、と思う。もう、昔の自分は残っていない。

「なあ、十代。」
「ん?」
「お前なんて、泥沼で十分だ。」
「は?えっと…なぁエド?全然お前の言いたい事がわかんないんだけどさ、たぶん、あんまり良いこと、言ってないよな…?」

それくらいは分かった、と返してくる十代の胸ぐらを掴んで、「僕にしては、とびっきりの褒め言葉なんだが?」と、何やら言いたそうにもごついている唇が、何か言葉を吐き出す前に、自分の唇で塞いでやった。




END

十代に溺れていくエドの話でした。
エド十のエドには是非性格悪く積極的であって欲しい…。
あ、それから身長とか気にしてたら萌える(悶)




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