恋なんかじゃない


最近はプロリーグの最中で、あまりこのアカデミアに来ることが出来なかった。
久々に降り立った島の港に、エドは少しだけ口許を綻ばせた。

十代は今頃寮でメザシでも食べているのだろうか。
あの馬鹿みたいに元気な赤い姿を見ることも、ここの所ずっとなかった。
だからだろうか、美味い美味いとメザシを頬張る彼の姿が自然と思い浮かべられて、会えなかったことを、今更ながら少しだけ寂しく思った。

その程度には自分は彼のことが好きなのだと思う。
けれど、それは、例えば、隣に並んで手を繋ぎたいとか、四六時中一緒にいたいとか、ましてや、世間の恋人達がするようなキスとか、それ以上がしたいわけではない。

友達だと、いつだったか十代に言われた事があったけれど、その大きすぎるくくりに入ることは嫌で、けれど親友と呼ぶにもすこし違う。仲間、と言われれば、確かにそうかもしれないが、自分の求めているものとは違う。

では何だろうかと、自分は彼の中のどのカテゴリーに属したいのか、また、彼は自分のどの部分に存在しているのか、考えつつ、ぼんやりと港から、足をレッド寮に向けた。

相変わらずな外観に、これも風情というものなのだろうか、と、寮の前に白線で引いてあるデュエル場を見て苦笑が漏れた。

十代の生活のスペース。毎日をこの島で過ごしているのだから、気配は所々に散らばっている。
例えば、生徒の話す彼の噂だったり、靴から落ちたのだろう階段の砂や、デュエル場の白線を消した無数の靴の跡だったり。
彼は、この良く言えば味がある建物の、二階の右から三番目の部屋で、デッキを組んだり、寝て起きて笑ったりしているのかと思うと、何だか胸が締め付けられるようで、実際、数秒間、呼吸を忘れていた。

その空間に自分はいなかった。
彼の生きるスペースに自分はいなくて、認めたくはないが、それが物凄く悔しかった。
だけれど、自分にだけ笑って欲しいとか、そんな甘ったるくも苦々しい思いはない。
この気持ちは確かに恋に似た激情であることは間違いないのだけれど、彼の友人と談笑している姿を想像すると、恋の苦しさとは違う、胸につかえる何かがあるのだ。

その、つかえと、先ほどから頭を悩ませる、自分にとっての彼と、彼にとっての自分についての疑問は関係があるのだと、エドは頭の中で二つを繋げてから、レッド寮に背を向けた。




.



「あ、エドー!お前を探してたんだぜ!」

そりゃあもう今日一日ずっと!やっと見つけた!

良く響く、彼のそんな言葉を聞いて、エドは海岸の砂を踏みしめる。
結局レッド寮から、島を散々歩いた後に、ここまで来てしまった。
ジャリッという音がして、もう夜も近い夕暮れに、こんなに寒い海岸を訪れる物好きなどいる筈もなく、次の瞬間にはシンと静まりかえったこの場所に、波の音だけが風の音と交わって辺りに響いている。
走ってきたらしい十代は息なんて切らして、崖の上から「今からそっちに行く!」とエドに聞こえる程度の大声で告げた。

「お前、今日はアカデミアにいるっていうからさ、久々にデュエルしようと思って!」

今なら不可解な彼との関係の名前が見つけられるかもしれない、と、エドは、程なくして、側に来た十代に「今からか?別に良いが、手加減なんてしないからな」と煽るように告げれば、「勿論!全力で行くぜ!」とデュエルディスクを構える彼。


(ああ、わかった気がする)


隣になんていて欲しくない。
笑いかけて欲しくもない。

いつだって、十代には自分の正面でディスクを構えていて欲しいのだ。
そして、自分も十代にとってそうでありたいと、エドは好戦的な笑みを浮かべる十代に、満足げな笑みを返した。




END

久々の更新でした…!
わかりにくいですが、十代とエドは、友達とか恋人である前に、まずライバルである、という話でした。
ライバル設定、萌えます…!


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