Small Pumpkin



絶対に菓子を用意しておけ、ときつく言い聞かされたのは先週のことで、けれど、つい昨日新しいカードを買ってしまったし、お菓子の作り方なんて知らない。
怒られるかなぁー…とか思いつつも、まあいいか、と、昔から買い溜めていたいくつかの飴玉だけを持って、十代はアカデミアに向かった。

「アーニキ!とりっくおあとりーとっス!」

授業が終わってから、黒いとんがり帽子をかぶった翔が、元気良く告げた呪文のような言葉には聞き覚えがあった。

「そっか、ハロウィンだったんだな、今日」
「今更何言ってるのアニキ。ハロウィンといえばコスプレ、コスプレといえばレッド寮っス!」

そう言う翔はイエロー生だ。殆どレッド寮に入り浸ってはいるけれど。
良く良く見てみれば、翔の格好は、ただ帽子をかぶっただけではなく、結構本格的に衣装を着込んでいた。

「はは、似合うぜ、翔!これやるからイタズラは勘弁してくれよ。」

さあさあ、早くお菓子を頂戴と、両手を差し出した翔の手のひらに、ポトンと飴玉を一つ落とした。

「ありがとアニキ。他の衣装もレッド寮の食堂に置いてあるから、アニキも好きなの着るといいんじゃない?」

そうは言うが、一昨年の学園祭で大ブーイングを受けた苦い思い出があるため、十代は「俺はいいや」と、首を振った。

「じゃあ僕は他にも行くところあるから、アニキ、イタズラされないように気を付けてね。」

言い残して駆けて行った翔の背中を見送って、十代は、さて、これからどこに行こうか、と辺りを見渡した。教室にはポツリポツリと人が残っているけれど、日本ではあまりやらないお祭り期間に浮かれているのか、生徒の殆んどが帽子やら耳やらを身に付けて「トリックオアトリート」の言葉を口にしていた。

「お、いたいた十代!」

ぽん、と肩に手を乗せてきたのは、この秋から留学してきた留学生で、あっという間に親友と呼べる仲になったヨハンだった。

「おっすヨハン!」

ヨハンを見ると、先程の翔程ではないけれど、襟の立ったマントを羽織って、カボチャで出来たランタンを首からぶら下げていた。

「なんだそれ?」
「ん?Jack-O'-Lanternだよ、知らないのか?」

見事な発音で返された言葉に、首を横に振る。ジャコランタンなるカボチャをゆらゆらしながら、ヨハンはもう一度唇を開いた。

「Jack-O'-Lantern。俺が作ったんだよ。」
「へぇ、器用だよなぁ、ヨハンって。」
「サンキュー!で、十代、Trick or Treat!」

やはり素晴らしい発音で発せられたお馴染みの言葉に、十代は少しだけ笑ってからポケットから飴玉を取り出した。

「はい、やるよ。」
「……」
「どした?」
「つまんねー!イタズラ出来るかと思ったのに、なんで持ってるんだよ、十代の馬鹿。」

そりゃあ、きつく言い聞かされていたし、部屋に買い溜めていた飴玉が残っていたからだ。

「馬鹿って…ひっでぇヨハン、俺何もしてないじゃん!」
「ま、そうなんだけどさ、ちぇ、残念。」

本当に残念がっていると思えば、次の瞬間にはけろりと、「じゃあ俺、これからまだ行くとこあるから」と言って、爽やかに片手を上げて「じゃあな」と挨拶を済ますとヨハンは去って行った。

なんだよ、もう少しくらい一緒にいてくれても良いじゃないかと思う。一人の放課後というのは、思いの他寂しかった。いつもは翔やら剣山やら、明日香に万丈目と賑わっているのだが、一際アカデミアが賑やかな今日に、十代の周りには誰もいなかった。

ポケットから飴玉を取り出して、口に入れると、ガリっと歯で噛み砕く。口に広がる科学的なメロンの味が妙に甘ったるかった。

とにかくアカデミアから出よう、出て、誰かデュエルしてくれる人を探そうと、教室を出ると、「やあ、十代くん」と、もう聞き慣れた声が頭上から降って来た。大分ある身長差のせいだとはわかっているけれど、でも突然上から声が聞こえれば驚いてしまう。

「わ、びびったぜ吹雪さん!!」
「酷いなぁ、そんなに驚かなくても良いじゃないか。」

と、吹雪は傷付いた風に肩を竦めた。

「ご…ゴメン…。それよりもスゲー衣装!本物の魔法使いみたいだぜ!」

さっきの翔は、翔には悪いが魔女にしか見えなかった。しかし、吹雪が今纏っているのは、貴族のような衣装に、髪を後ろで一つに結って、眼鏡などかけている。それは魔法使い、というよりも、悪い魔術師のような仕上がりになっている。

「まあね、普通にやってもつまらないし、このブリザードプリンス、女の子達の期待に応えない訳にはいかないのさ。」
「ふぅん…」

吹雪が女子に人気があることは良く知っているけれど、それと、吹雪の今の格好は何か関係があるのだろうか?女子とはこういうものが好きなのだろうか。
十代は理解しないまま、曖昧に頷いた。

「さて、十代くん、お菓子をくれないと悪戯するよ?」
「えっ、吹雪さんもお菓子が欲しいのか?」
「そりゃあ、ね。だけどお菓子より悪戯が目的かな。」

ポケットに手を突っ込むと、残っている飴玉はあと二つ。その一つをポケットから取り出して、吹雪に差し出す。

「はい、これで悪戯は勘弁してくれよ、吹雪さん。」
「有難う」

飴玉を受け取って、吹雪はさながら貴族のように一礼すると、「女の子たちが待っているから僕は行くよ。」と十代には全く無意味なのを知ってか知らずか、ウインクを飛ばすと、行ってしまった。


結局また一人取り残され、十代はポケットに一つだけ残っている飴玉を取り出して、口に放り込むと、今度はイチゴの味が広がった。

「そういや、」

菓子を持って行けと、自分にきつく言い聞かせた彼は、クルーザーにいるだろうか。
どうせ今日はもうデュエルの相手も見つからないだろうし、レッド寮に帰る前に港に寄っても問題ないだろう。







港はいつになく静かだった。ハロウィンの夜、というのはあまり関係がないのだろうけれど。

エドのクルーザーには明かりが点いていた。この静かな港で、そこだけが暖かい気がして十代はクルーザーまでの道を、波の音を聞くともなく聞きながら速足で歩いたのだった。



「エドー!」

呼び掛ければすぐに中から想像と同じ、いつものグレーのスーツに身を包んだエドが出てきて、「なんだ、喧しい」と少しだけ不機嫌な顔をして。

「まあ、そう言うなって、エド。あ、そうそう、今日はお前のお陰で助かったぜ。」

有難う、と礼をして、上げて貰ったクルーザーの中で、今日あった色々を告げた。

「でさ、結局最後は俺が食っちまったから一個も残ってないんだよなー。」

興味無さげに、だけれど、所々で反応を示すエドに、ちゃんと聞いてくれていると満足した十代は、机ともいえない台の端に置かれた小さなカボチャ型の入れ物に気づく。
中に飴を沢山入れたそれは、台の端でちょこんと存在を主張していて、その小ささが非常に可愛かった。

「可愛いな、これ。」
「ああ、一応祭だからね。ここまでお菓子を要求しに来る物好きに配ってたんだよ。」

よく分からない奴等にイタズラされちゃ堪らないからね、と、エドは昔見せたような、あまり良くない微笑を浮かべた。

「へぇ〜。エド、トリックオアトリート!」

そんなエドに、十代は例の言葉と共に手を差し出す。
確かにカボチャも可愛いけれど、自分が貰っていない物を、他の誰かが貰っているだなんて、ちょっと嫌だな、なんて思ったのだ。
十代のそんな思考に気付いたのか、そうでないのか、とにかくエドは上機嫌に「Happy Halloween!」と流暢なイングリッシュで十代の手に小さなカボチャを渡したのだった。
そうして、小さなカボチャを眺める十代に、エドは酷く意地の悪い表情を浮かべ、やはり完璧な発音で告げた。

「Trick or treat、十代?」




END

ハロウィン合わせのエド十でした。
ハッピーハロウィン!!




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