曰く、愛




全く、俺がどんな気持ちでいるのかわかっているのか、こいつは本当に。
寝たい、つまり、抱きたい、つまり、そういう意味で触れたい。
と、ようやくの思いで、寝たい抱きたいだけではまるで通じなかった、純粋なか馬鹿なのか、その手の知識が皆無に等しい恋人に告げたばかりだというのに。

「カイザー!今日泊めてくれ!」

この一言に俺は頭を抱えた。
俺が十代に告げたのが昨日。十代が「ええ!?だ…だってさ!男同士じゃん俺達…!」と意味には気付いてくれたが、何とも当然な返事をしたのも昨日。
その返事に対して「それでも可能だ」と返したのも昨日であれば、「っごめん…む…無理…!」と彼が真っ赤な顔で告げたのも昨日だったりする。

全く、少年心はしっかり持っている癖に、男心を全く理解していない。

「何故だ?」
「なんか知らねぇけど、今日は俺のベッド使わせてくれって。」
「…誰にそんなことを言われた」
「吹雪さんに」

出て来た名前に目眩を覚える。
十代を俺の部屋に泊まるように仕向けたのも、あいつに決まっている。

「無視しろ」
「は?」
「吹雪の言うことなんて無視しろ…いや、俺が説明しておく。」

だから、いつもどおり部屋に戻れ。
そう言うと十代は少々考える仕種をした後にのたまった。

「んーカイザーが駄目なら、仕方ねえから三沢んとこにでも泊めてもらもらうかなぁ…」

と。

「……仕方ない」

これが親友の思う壷だということはわかっているが、違う誰かの部屋にこいつを泊めるくらいなら。
ただでさえ、付き合い始めてから至るまで時間が掛かり過ぎだとのことで、その親友から「甲斐性なし」と散々からかわれているわけだが、どうせ甲斐性なしならなしらしく、耐え抜いてみせる。

「いいのか?泊まっても!」
「ああ」
「やりぃ!カイザーの部屋広いし快適だし、しかもずっと一緒にいれるし、良いことずくめだぜ!」

手放しで喜ぶ恋人と、親友の思惑と、もう後者は後でゆっくりと考えることとする。
自分は割と理性的であると思う。

そう、信じたい。

「では、食事が済んだ頃に迎えに行く。」
「えっ!いいって!泊めてもらうの俺なんだし、そこまで面倒掛けらんねぇよ!」
「面倒ではない。他ならぬお前のためだ。」

うーーんと俯きながら唸る彼のその顎を持ち上げてやれば、観念したように苦笑を浮かべる。

「そっか。ありがとな!好きだぜ、カイザー!」
「ああ……ん?」
「…っじゃあ、また後でな!!」

脱兎の如く逃げ去った後ろ姿を見て、そういえば初めて好きだと彼から言ったな…と今更ながらに気付き、更に今更ながらに頬が僅かに熱を持った。



全く、どうしてくれるんだ。
飽きるほど甘やかしたい…など、俺らしくない。








夕食までにはまだ時間があるので、一端DAからブルー寮へと戻ることにしたのだが。
さて、人の部屋部屋の前でウクレレなど奏でている馬鹿は誰だ。

「なんだ、一人かい?今日辺り君が十代君を連れ込むと思っていたのだけどね。」

ああ、嘆かわしや!我が親友殿は驚くべき甲斐性なしであった…!!
などと大袈裟に天井を仰ぎ嘆いている吹雪を無視して自分の部屋へ入る。
続いて、無視されることを当然と考えていたのか、あっというまに笑顔になった吹雪も、ウクレレを抱いたまま図々しく部屋に入ってくる。

「お前が仕向けたんだろう?」
「さあね」
「吹雪」
「だって、亮。君ってばこのままじゃ絶対十代君に手を出さないだろう?」
「無理強いする気はない」

これは本心だ。どんなに自分が辛くとも、相手を無理矢理欲望のままにするのは最低だと考えている。

「だけどね亮、恋の魔術師的な視点で見ると、君達はラブラブだ。」
「ら…っ!?」
「だから、一度ぐらい思いっきり迫ってご覧よ。」

案外大丈夫かもしれないよ?
と、吹雪にしては珍しく、非常に穏やかな笑みを浮かべて言ったのだ。

「じゃ、アドバイス終了!報酬は晩御飯終わるまでこの部屋にいさせることで手を打とうじゃないか。」

そうして、夕飯が終わればレッド寮へ逃げる算段だろう。どうせまた明日香のファンクラブに、彼女の写真を配り歩きでもしたか。
まったく、この兄妹は本当に人気がある。男から見て、明日香など魅力的な存在だろう。現に万丈目は中等部の時から惚れていると聞く。
良く靡かなかったものだ、十代は。
しみじみと考えて、目を閉じる。

「亮」
「何だ?」
「頑張れよ」   
「……言われずとも」

そう答えては見るが、決心は付かないものだ。
第一、一度拒絶されたものを、昨日の今日でまた迫るのだ。
前途多難とはまさにこの事である。





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