早めに夕食を済ませて、十代を迎えに行く。
DAの側にあるブルー寮から、どちらかといえば港に近いレッド寮まではかなりの距離がある。
レッド生はこの距離を毎朝通っているのだから、遅刻が目立つのも頷けるというものだ。

十代のいるレッド寮の食堂からは絶え間なく笑い声が聞こえる。
その扉の側に立って十代が出てくるのを待つ。
そのまま入っても良いのだが、何となく、自分が現れた事により、レッドの空気を壊してしまいたくはなかった。

「ごっちそうさま〜っ…と、カイザー!」

出てきた十代は満足そうに腹を抱えて、俺を見るなり「待たせちまったか?」と訊いてきた。

「そんなことはない。」
「そっか、良かったぜ。わざわざ迎えに来てくれてサンキューな!」
「いや、俺が好きでしていることだ。行くぞ。」

へへへ、と笑う十代は、そんなに俺の部屋に来ることが嬉しいのだろうか。

「何がそんなに嬉しいんだ?」
「だってさ、これから朝までずっとアンタといられるんだぜ?これが嬉しくない筈ないじゃんか!」

どきりとした。何も考えていないこと程恐ろしいことはない。この発言に裏は断じてない。ないのだ。

「そうか」

それだけ口に出すのが精一杯で、そんなことで、今夜抱かせてくれなど切り出すことが出来るのか、非常に自信がなかった。
こと勝負事に関しては、負ける気がしない。だが、恋愛沙汰になれば話は別で、経験もへったくれもあった物ではない自分が、正直かなり情けなかった。
吹雪のように、とまではいかないが、昔、恋の一つでもあれば良かったか。だが、初恋というこっ恥ずかしい青春の酸い甘いが、遅ればせながら、今この時期、目の前の少年で良かったと心から思うのだ。

「カイザー、どうかしたか?」

恥ずかしい思考の波に捕らわれていた俺を、十代の声が呼び戻した。

「いや、なんでもない」
「ふぅん、そっか。じゃ、行こうぜ!」
「ああ」







「おっ邪魔しま〜す」

日常、生活している自分の部屋も、彼がくるだけで大分雰囲気が変わるものだ。まるで全てのものを明るく照らし出してしまうような、そんな効果でも彼にあるのだろうか。などと、思ってしまう程に。

「好きにするといい」
「て、言われてもなー。こんなに広いとどうしていいかわかんねぇんだよな、いつも。」
「ならそこに座っていろ。今何か飲み物を持ってくる。」
「サンキューな、カイザー。」

小型冷蔵庫に仕舞ってあったミネラルウォーターを二人分のグラスに注いで、十代のもとへ持って行く。
広い部屋は慣れないらしく、いつも彼はベッドの上に膝を立ててちょこんと座っていた。

「シャワールームは勝手に使え。寝るのはやはり別がいいな。お前は床で寝ろ。掛け布団は貸してやる。」
「へ〜い!わかった!でも折角だしカイザーと一緒に寝たかったぜ…」

彼に決して他意はない。一緒に寝たいというのは、一緒に眠りたいということだ。わかってはいるが、それでも、少しだけ跳ねた心臓をどうにもすることは出来ない。

「なあ駄目か?」

差し出したグラスを受け取りながら、ねだる十代を、これ程までに恨めしく思ったことはない。

「身の保証はしないぞ。」
「身の保証って…」
「昨日言ったことを忘れてはいないだろう。」

ふ…と短く笑う。もしかしたらこれは自分に対する嘲りだったのかもしれない。再び、迫って拒絶される事に、少しでも恐怖しているなどと。

「昨日?昨日って…昨日……き…のうっっ!!」

程なくして、ピンと来たらしい十代が、耳まで顔を赤く染め上げてうつ向いた。グラスは両手で持ったまま、膝の上だ。
俺は十代の側まで行くと、そのグラスを取り上げて、そのままそこにあった台に置く。

「十代」

膝を折ってしゃがみ、うつ向いたままの十代の身体を、片手で引き寄せる。

「あああ…あの、さ!」
「なんだ」
「ええと…」
「何でもないなら黙っていろ」

明らかに焦っている十代に、ここでもう一度告げてしまおうか。抱きたいと。
引き寄せた身体が思った以上に温かくて、その熱を分けて貰うかの用に、両腕で抱いた。

「抱きたい、お前を」
「…それは」
「駄目か?」
「アンタは好きだけど…でもさ、好きってだけで十分じゃんかよ!」
「俺には足りない」

それだけでは足りはしない。心だけでなく、その身体の隅々まで彼を自分で埋め尽くしてしまいたい。

「お前の隅から隅まで、俺だけのものにしたい。」

どうしても手に入れたいという欲求と、無理強いは絶対にしないという理性とが責めぎ合う。改めて目の前、腕の中にしたこの存在が今、欲しくて欲しくて堪らない。

「じゃあ、アンタは俺のものになるのかよ?」

いきなり何を問うかと思えば、見つめた十代の瞳は真剣そのもので。
俺は、肩に回した腕を離すと、両手を彼の頬に添えた。
上を向かせて、近距離で見つめても、その茶の瞳は羞恥心に揺らぐ事なく俺の答えを待っている。

「お前が望むのなら、な。」
「俺は、カイザーが欲しいよ。」

それくらい、大好きなんだ。と付け足す声を、唇を重ね合わせることで吐息ごと奪う。

「ん…っ…ぅ」

弛く開いた唇から、自分の舌を彼の口内に侵入させて、おずおずと差し出してくる彼のそれに絡めて、深く深いキスを堪能する。

「なら、俺はお前のものだ。だから、俺のものになれ、十代」

唇を離して告げた声は、自分でも驚く程に甘ったるい。そこに切実な想いが乗っていることに、十代は気付くだろうか。

「い…いぜ…」
「本当か?」
「俺、きっとアンタになら何されても平気だ。」

そう言って、首に絡められた腕とか、見上げてくるどんな時でも意志の強そうな瞳を、心の底から愛しく思い、また、手に入れたいと願い、甘やかしたいと望む。

「有難う」

その一言だけ伝えて、彼の身体を抱え上げた。





NEXT